TechnologyとIntelligenceに憧れて

外資系ネットワーク・エンジニアの独り言。

Vol 10:『AI以後 変貌するテクノロジーの危機と希望』 丸山 俊一+NHK取材班

AI以後: 変貌するテクノロジーの危機と希望 (NHK出版新書)

『AI以後 変貌するテクノロジーの危機と希望』 丸山 俊一+NHK取材班[編著], NHK出版, 2019

 

本書は、AIという時代のテーマについて、異なるジャンルの4人の知の巨人が語るAI登場以後のビジョンからこれから何が起きようとしているのか、人工知能の真のリスクと可能性を認識し、この時代を生きるためのヒントを探ろうとするものである。
宇宙物理学者のマックス・テグマークは、知能とは「目標を達成する能力」と定義し、AI研究の究極の目標は、広範な能力をもつ汎用人工知能(Artificial General Intelligence:AGI)である、とする。このような未来のテクノロジーや未来のAIでは、失敗による影響が広範囲に及んでいくことからミッションの成功を確実にするための安全工学の研究が重要なものである。さらに、AIにどんな未来にするかを伝え、その未来をもたらすAIを作り上げなければならない。
倫理学者のウェンデル・ウォラックは、そして、人が選択や行動をするときの主たる選択をするための根拠を与えるのが倫理の役割であり、不確かな世界をナビゲートするためのツールを与えてくれるものである。今後、人間とAIの連携していくことにより、人間の判断とAIの判断のどちらを選択するか、という倫理的ジレンマも生まれてくる。また、これまでにない新たな倫理的問題に熟慮するような厄介であるが、楽しい時代となる。
哲学者のダニエル・デネットは、AIは意識を持たない知的ツールであるべきであり、我々に必要なのは、ディープラーニングという仕組みを使用して、我々が利用可能な形でAIの機能を拡張させることである、と説く。また、AIが創造性を持つためには、AIが自律性を持つ必要があるが、AIが自律性を持つことにより、コントロール不能となる側面もある。今後のAIイノベーションでは、AIが人間の感情や社会を操作する方法を発見し、破滅的な道に進む可能性がある。
編集者のケヴィン・ケリーは、AIを持つべきかどうかではなく、そのようなAIを持つべきか、を考えるべきであり、AIとテクノロジーは、より多くの選択肢とより大きな可能性を与えてくれると考えている。最後に、我々は、今自分が何者かを見つける段階にあり、自分が何者かを理解したら、次の段階では、自分を何者かに創り上げなくてはならない。AIは、我々の助けになってくれるが、我々の代わりにこのプロセスを担ってくれるわけではない。これが、AI以後の世界を生きる我々の務めである、と結論づける。
日本では、新井紀子氏の著書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』や続編の記載のように、今後未来を担う若年層の読解力の低下が指摘されている。このような状況において、ケヴィン・ケリーの最後の言葉は重い。
今後、人間が望む世界はどのようなものなのであろうか?そして、人間は、AIに支配されずに生きていくことができるのであろうか?

 

本書については、山下克司氏の書評(「AI以後 変貌するテクノロジーの嬉々と希望」丸山俊一著 - イノベーションの風に吹かれて)もぜひお読みいただきたい。

また、新井紀子氏の著書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』に関する拙稿は、

Vol. 2:『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』 新井紀子 - TechnologyとIntelligenceに憧れてを参照ください。