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Vol 9:『二十一世紀の資本主義論』 岩井克人

『二十一世紀の資本主義論』 岩井克人著, ちくま学芸文庫, 2006

 

 本書は、長短織り交ぜた23編からなるエッセイ集である。著者によるあとがきにも記載されているが、各エッセイには、経済学者である著者の「貨幣論」と「資本主義論」が散りばめられている。
 著者の「貨幣論」とは、以下のようなものである。
 貨幣とは、この世にあるすべての商品の交換を可能とする一般的な交換手段であり、貨幣は何らかの実体的な価値によって支えられているのではなく、貨幣として使われるから貨幣として存在する。そして、現在の貨幣が将来においても他の人々が貨幣として受け入れてくれる予想をしていることが貨幣としての価値を支えている。これは、貨幣を保有している人すべてが考える予想の無限の連鎖が信用となっていて、この連鎖が崩壊すると、貨幣価値の低下を招き、ハイパーインフレーションの発生となる。
 また、基軸通貨については、どのような国のどのような商品とも交換可能な通貨であり、グローバル市場経済の貨幣となるものである。現在の基軸通貨であるドルは、アメリカを介することなく取引が行われている。そして、基軸通貨であるドルに危機が起こるということはグローバル市場経済の解体を意味する。
 本書のもう一つの主題である「資本主義論」は以下のようなものである。
 著者は、資本主義の基本原理は、複数の価値体系に差異があれば、その差異を媒介して利潤を生みだす。この差異性こそが利潤の源泉である、と主張する。これを歴史的にみると、商業資本主義の時代には、遠隔地貿易のように複数の価値体系のあいだに差異があれば、その差異を媒介して利潤を生みだす。そして、産業資本主義の時代には、一つの国の中に市場化された都市と市場化されていない農村が共存することにより生み出される労働生産性と実質賃金率の差異が利潤の源泉となっていた、さらに、情報資本主義の時代には、企業間の情報の差異性を媒介したり、情報そのものを商品化したりすることによって、利潤を生みだしていくということである。
 グローバルな観点から見ると、この資本主義の構造は「中心」と「周辺」からなり、中心と周辺の差異が利潤を生みだしていた。つまり、資本主義は、差異という名の格差が必須のものであり、すべてが平等になってしまうと資本主義が成り立たなくなってしまう。現在は、IT革命によるグローバル化が進み、世界のフラットになってきている。この結果、資本主義の利潤の源泉がなくなってしまうため、資本主義の終焉ということも言われている。このような現在の状況において、ITを活用しつつ、貨幣論と資本主義論を融合した新たな経済理論を確立することが必要になってきていると考える。

 

二十一世紀の資本主義論 (ちくま学芸文庫)

二十一世紀の資本主義論 (ちくま学芸文庫)