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2024 Vol 1:『世界システム論講義 – ヨーロッパと近代世界 -』

世界システム論講義 ──ヨーロッパと近代世界 (ちくま学芸文庫)

世界システム論講義 – ヨーロッパと近代世界 -』 川北 稔著, 筑摩書房, 2016

 

 世界システム論とは、ウォーラーステインが提唱した歴史理論である。世界システム論では、近代世界を一つの巨大な生き物のように考え、近代の世界史をそうした有機体の展開過程としてとらえる見方である。つまり、近代世界は一つのまとまったシステムであることから歴史は「国」を単位として動くのではなく、すべての国の動向は、世界システムの動きの一部でしかないのだ。

 近代世界システムは、十六世紀に、西ヨーロッパ諸国を「中核」、ラテンアメリカや東ヨーロッパを「周辺」として成立した。ここで、「中核」とは、世界的な規模での分業体制から多くの余剰を吸収できる地域であり、工業生産を中心とする地域である。これに対して、「周辺」とは、食糧や原材料の生産に特化させられ、「中核」に従属させられる地域のことである。さらに、世界システムには、全体が政治的に統合されている「世界帝国」と政治的には統合されていないが、大規模な地域間分業によって経済的に結ばれている「世界経済」とがある。近代世界は、全体が世界規模で資本主義的な分業体制にある「世界経済」の原理で成り立っている。

 こうした歴史の流れの中、十八~十九世紀には、世界システム論の観点から見て、「周辺」に位置付けられた地域の従属状態からの脱却を目指す、「半周辺化」の運動(革命)が起こった。「周辺」と位置付けられた従属地域は、いったん支配的な中核国との関係を断ち切らねば、不等価交換による搾取と従属による社会・経済の構成の歪みを生む圧力を受けるため、その立場から脱却することができないのだ。

 転じて、日本を見てみると、江戸時代の鎖国制度の結果、世界システムから切り離された状態であり、その後の明治維新による開国後も、日清戦争に勝利することにより、中核国から支配されることを回避することができた。この結果、世界システム上の地位を高めることができ、「半周辺」の地位にとどまることができたのだ。ただ、戦後の日本は、アメリカの従属国になってしまっているようにも見えるが、、、

 これまで資本主義は、「中核」、「周辺」、「半周辺」から成り立っていたものが、もともと「周辺」に位置付けられていた、植民地の消滅や新興国の経済発展により、「周辺」の拡大が難しくなっている状況であった。「周辺」が拡大できなくなり、資本主義の発展に陰りが見えることは、既にマルクスが『資本論』で「資本主義は行き詰まる」と表現していた。

現在は、ITの急速な発展により、FAANG(Facebook/Apple/Amazon/Netflix/Google)と呼ばれるビックテックが利益を独占するようなサイバーサイバー空間が現れている。このサイバー空間は、これまでの「周辺」に代わるものとして、「中核」に利益をもたらすものなのであろうか?それともこれまでの「中核」に取って代わり、搾取と従属により、莫大な利益を上げ続けることになるのであろうか?

失われた30年を過ごした日本は、かつての輝きを取り戻すことができるのだろうか?それともこのままゆっくりと沈んでいくことになるのだろうか?

ひとえに、我々ひとりひとりの行動にかかっているのではないだろうか?