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外資系ネットワーク・エンジニアの独り言。

2021 Vol.12:『グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界』

グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界

グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界』 クラウス・シュワブ、ティエリ・マルレ 著 藤田正美、チャールズ清水、安納令奈 訳, 日経ナショナル ジオグラフィック社, 2020

 

 本書は、新型コロナウイルスによるパンデミックの世界的な発生が今後の世界にどのような影響を与えるか、についてマクロ的視点やミクロ的視点などさまざまな視点からまとめたものである。

 今回のパンデミックは、歴史の分岐点となった第二次世界大戦に匹敵する変化を社会にもたらす可能性がある。この変化がもたらす新しい秩序は無限にあり、我々の想像力が決定することになる。そして、この危機が終息した時に現れる世界をより良く、復元力の高いものにするためには、我々が世界のイメージを描き直すことが必要である。

 歴史的に感染症によるパンデミックは、国の経済や社会機構を組み直す大きな契機(グレートリセット)となってきた。パンデミックに停滞した経済を持続的に回復させるために、政府はあらゆる策を講じ、コストをかけても国民の健康や社会的な富を維持しなければならないのだ。もし政府が国民の命を守ることに失敗すれば経済の回復は進まない。一方、新型コロナウイルスによるパンデミックは多くのものを寸断したが、ここで一度立ち止まり、本当に価値があるものは何かを見つめ直す契機である。経済をより公平で環境に優しい形に生まれ変わらせる制度の変更や政策を選択するチャンスなのだ。

 さらに、パンデミックは、大規模な富の再配分と新自由主義との決別という二つの流れを社会基盤にもたらす。その結果、不平等がもたらす社会不安から、政府の役割の拡大、そして社会契約の再定義に至るまで、社会組織に決定的な影響が生じることになる。

 また、地政学の観点からは、パンデミックは多国間主義が終焉し、グローバルガバナンスに空白が生じ、ナショナリズムが台頭することとなった。これにより、地政学的な断層で世界が分断された結果、国際的に協力する集団的有効性が制約され、パンデミックを根絶する能力を発揮することができなっているのだ。

 現代社会は、グローバルリスクから見ると、パンデミック、気候変動、生態系の崩壊という三つの重大な環境リスクにさらされている。これまで人間は多様な動植物が生息する自然環境を侵略し、生物多様性を破壊してきた。この結果、解き放たれた新型ウイルスの新たな宿主に選ばれたのが人間なのだ。つまり、生物多様性を破壊するとパンデミックの数が増加するという状況に直面しているのだ。そして、パンデミックの終息後、世界はどの方向に進むのであろうか?気候変動は棚上げして経済回復に向かうかもしれない。けれども、気候変動リスクが顕在化するまでには、パンデミックよりも時間がかかり、パンデミックよりも深刻な結果をもたらす。我々はこれまで以上に環境に目を向けていかなくてはならないのだ。

 テクノロジーの進化は急ピッチで進み、AI、モバイル機器などは我々の生活の中にすっかり溶け込んでいる。そして、オートメーションとロボットは企業経営に変革をもたらすものとなった。このように第四次産業革命は、その範囲においてもスピードにおいても目覚ましい発展を遂げた。さらに、パンデミックが技術革新をこれまで以上に加速させることとなった。そうした中、パンデミックはプライバシーというテクノロジーが社会と個人に避けて通れぬ課題を突き付けることとなった。新型コロナウイルスの広がりに伴い、デジタル技術を用いた接触確認、接触追跡、監視という方向に向かう可能性があるということだ。つまり、監視資本主義の世界である。今後の世界が、個人、それに国家全体の価値や自由を犠牲にすることなく、テクノロジーの恩恵を管理し、存分に活かせるかどう化は、国家と国民の心がけによるのだ。

 ここまでパンデミックが5つのマクロ的な主要分野である、経済、社会、地政学、環境、テクノロジーに及ぼすものについて記述してみた。当然、これ以外にも産業や企業といったミクロ的な側面や個人に関するものも存在する。だが、重要なのはパンデミック後にもとに戻るのではなく、新しくどのような世界を構築していくかである。そのために各個人がどうするべきかを考えることが重要である。