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外資系ネットワーク・エンジニアの独り言。

欲望の資本主義 2022 『成長と分配のジレンマを越えて』

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『欲望の資本主義 2022 成長と分配のジレンマを越えて』 NHK BS1スペシャ

 

 毎年年初に放映される「欲望の資本主義」シリーズの最新作である。

 今回のテーマは、「成長」と「分配」である。

 昨年の「欲望の資本主義 特別編」で紹介されたように、新型コロナウイルスによるパンデミックからの回復には、「K字回復」の傾向を示している。回復基調となるハイテク産業と低調な状態が継続されるサービス産業に二極化することになりそうだ。そして、今回のパンデミックによる世界各国経済への影響は多大なものであり、日本をはじめとする各国政府は、景気回復に向けた刺激策を実施している。この景気刺激策が、非効率で無用なものを残し、今後の大きな成長が見込めるスタートアップ企業の芽を摘むことにもなりかねない。本来、危機の時に実施すべき政府の救済策が常に実施されているのが今日の資本主義の姿である。

 資本主義の原動力となるのは、利潤を追求することである。かつてケインズは2030年頃には労働時間は大きく減少すると予言していたが、現代社会の労働者はさらなる成長のために、資本家階級から仕事の奴隷として仕向けられている。この結果、市民(労働者)が得られるはずのものがエリート層(資本家)で貯蓄され、大きな所得階差を生み出した。

 福祉国家であるスウェーデンでは、スウェーデン・モデルと呼ばれる政策が実行されている。スウェーデンでは、企業を守るのではなく、人を守ることが最重要視されている。このモデルでは、ゾンビ化した企業を存続させるのではなく、新陳代謝による新たな企業を登場させ、人も技術も市場で再利用することを目指している。これにより、労働の流動化を図り、高賃金と高い生産性を実現している。

 番組内では、チェコの奇才トーマス・セドラチェク氏と若きマルクス経済学者斎藤幸平氏の対談が収録されている。現代は、資本主義が経済成長と裕福な生活を果たすことができず経済的不平等に直面し、破綻している状況であり、現在の制度が解決策を提示できない状況にある。このような状況について、セドラチェク氏は、旧チェコスロバキヤにおける自身の共産主義社会での経験から社会主義/共産主義に反対し、資本主義の中で現在とは異なるやり方があるとして、資本主義の中での解決策を見出そうとしている。これに対して、斎藤氏は、意図的に「脱成長」や「社会主義」という言葉を使いながら挑発的に資本主義を批判し、資本主義からの転換を模索しているようだ。

 人新世の時代に入ったと言われるように、我々の人間は地球環境を破壊し、気候変動の激化を招いた。この環境破壊は、資本主義以上に共産主義社会の方が顕著なものであった。これから我々は、地球の許容限度内ですべての人のニーズを満たすことを考える必要があるのかもしれない。

 資本主義は成長を目指し、これに対する社会主義は分配を志向した。これらの社会制度は、民主主義を前提とし、成長と分配の調整役としての生産性の役割を果たすものと思われる。番組の最後に語られる6つの言葉(成長、分配、生産性、循環、繁栄、幸福)の意味を考えたい。成長、分配、生産性が循環することにより、社会が繁栄し、人々に幸福をもたらすということを意味しているのか?

 最上段の富裕者のグラスが利益の大部分を吸い取る現在の状況では、シャンパンタワーのようなトリクルダウンは起こらない。利益をどのように市民に分配するのかが依然として残る大きな課題である。これまでも資本主義は自由に形を変えて存続し続けてきた。外部のフロンティアがなくなりつつある今、これまでのような外のフロンティアに向けた成長を志向することはできない。宇宙、デジタル空間、アイデアなどこれまでとは異なるフロンティアを活用して、資本主義は存続するのであろうか?

 どのような状況にあっても欲望は止まらない。。。