TechnologyとIntelligenceに憧れて

外資系ネットワーク・エンジニアの独り言。

『欲望の資本主義 2023 – 逆転のトライアングルに賭ける時 -』

 

『欲望の資本主義 2023 – 逆転のトライアングルに賭ける時 -』

 

 ここ数年、年始の恒例となったNHK BS1スペシャル『欲望の資本主義』シリーズの最新作である。今回は、現在の覇権国であるアメリカが衰退してきており、その結果、グローバリゼーションの終焉を迎えようとしている状況から今後の資本主義の行方について考えようとしているようだ。

 現代は、さまざまな面で格差が生じる時代である。研究開発への投資の結果、イノベーションが進んでいる先端企業はますます発展し、遅れている企業はますます遅れていく状況である。つまり、累積投資と研究開発がイノベーションを生み、企業に大きな権利を生じさせるのだ。だが、イノベーションは、いいことばかりではなく、イノベーションこそ悪という側面もある。悪いイノベーションが良いイノベーションを駆逐する、消費者にとっていいものを駆逐してしまう面もあるのだ。

 現在、「超大国アメリカは、多くのモノを輸入に頼っている。さらに、社会の基盤を支えるエンジニアについても自前で調達することができず、外国人に頼っている。つまり、モノだけでなくエンジニアも輸入している状態になっている。世界の超大国であるアメリカの力が衰える時代に入り、アメリカは政治的にも経済的にも影響力を弱めつつある。中心なき世界秩序の時代あって、アメリカに替わって、世界のリーダーになる国が登場することはなく、次第に世界は減速していくことであろう。欲望の曲がり角に来た今、アメリカの影響力から距離を置きつつ、我々はどこに向かうべきなのだろうか?

 アメリカの前の覇権国のイギリスは、サッチャー時代から「モノを作れば売れる」という思想のもとで経済運営をしていた。この発想からすると、より大きな市場を相手にすることが望ましいはずであるが、ブレグジットによりEU離脱を行い、EUという巨大市場を手離すことになった。イギリスは、EU離脱国民投票が可決されたころから迷走し始めたのだ。

 こうした状況の中、日本はどうなのであろうか?

 日本は、「失われた30年」と呼ばれる、慢性デフレと急性インフレがからみ合い、最低レベルのインフレ率で、結果として賃金も物価も上がらない時代を過ごしてきた。この「失われた30年」は、モノづくりから金融にシフトした時代であり、気分が支配し思考が停止した時代であった。このため、日本では社会システムとデザインする経験が失われてしまったのだ。

 資本主義が機能するためには、これまでの政府―企業という官民の協業だけでなく、市民社会を含めたトライアングルを形成することが必要となる。民間投資と公共投資イノベーションの源泉となり、十分な情報を保有した政府が効率性と公平性を提供することができれば、社会は安定を得られるであろう。そして、日本では、労働者が別の企業へ容易に移ることができるような労働市場の改革が必要である。ここには、移民を受け入れることも含まれる。

 今後の資本主義は、経済成長の減速を制御しながら、公平な再分配が必要となる。これまでの成長一辺倒の膨張から循環の経済へ転換していくことが必要である。

 「成長」、「投資」、「イノベーション」、「欲望」、「自分で考える」..番組の最後に挙げられた言葉が意味するものは、、、、ケインズシュンペーター、歴史的な偉人と対話しつつ、自分自身で物事の本質を見極める目を養い、自分自身で判断する能力を身につけることが必要だ。