TechnologyとIntelligenceに憧れて

外資系ネットワーク・エンジニアの独り言。

2021 Vol. 1:『21 Lessons – 21世紀の人類のための21の思考』 ユヴァル・ノア・ハラリ

21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考

 

『21 Lessons – 21世紀の人類のための21の思考』 ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之:訳, 河出書房新社, 2019

 

 著者のこれまでの作品において、『サピエンス全史』が人類の過去から現在までを歴史的にたどることにより、現在の人類を見た。そして、『ホモ・デウス』が現在から数十年後の未来を志向して、テクノロジーの観点から人類の未来を考察していたのに対し、本書は、副題にあるように、21世紀の現在について21の視点からの思考である。そして、著者が取り上げた21の項目について、明確さと一連の考察を提供し、その考察から人々にさらねる思考と現在の主要な議論に参加すること、つまり行動することを求めている。

 20世紀に人間は、ファシズム共産主義自由主義という三つの物語を考え出した。その後、これらの物語は順次破綻し、自由主義のみが残された。この自由主義は経済成長に頼ることで社会的な争いや政治的争いを解決してきた。経済成長は、テクノロジーが引き起こす技術的破壊の上に成り立っているのだ。さらに、ITとバイオテクノロジーの革命により、そこで生み出されるアルゴリズムが支配するようになり、自分の内側の世界を制御したり生命を操作したりできるようになる日がくるであろう。その結果、多くの人々を雇用市場から排除し、巨大な無用者階級を生み出す可能性もある。ITとバイオテクノロジーの発展は、アルゴリズムに仕事を奪われるというだけでなく、人間からアルゴリズムへの権限の移行の可能性、つまり、デジタル独裁国家の誕生への道を拓くことになりかねない。

 本書では、21世紀に国家が単独ではなく、国家間でグローバルに協業しなくては解決できない課題として、核戦争、生態系の崩壊、技術的破壊の三つを挙げ、どれ一つを取っても、人間の文明の将来を脅かすほど深刻なものとしている。現在(2021年)の新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックも、国家が単独ではなく、グローバルな協業が必要なものなのではないだろうか?

 自由民主主義と自由市場資本主義は、個人を世の中について絶えず決定を下している自律的な行動主体と見なしている。だが、IT/AIの発展により、今後はコンピューターアルゴリズムが多くの決定を下すことになるかもしれない。これまで自由主義の秩序は、自由と並んで平等の価値も重視していた。アルゴリズムは、人間の自由を消し去るだけでなく、不平等な社会を生み出しかねない。富と権力がごく少数の人々に集中する一方で大多数の人々の存在意義の喪失を招くことになるかもしれない。

 21世紀において、人々が必要としているのは、情報ではなく、情報の意味を理解したり、重要なものとそうでないものを見分けたりする能力、そして大量の情報の断片を結びつけて、世の中の状況を幅広く捉える能力だ。そして、バイオテクノロジーの発展により、我々は人間がアルゴリズムにハッキングされる時代に生きている。自分の存在や生命の将来について、支配権を維持したければ、アルゴリズムよりも先回りして自分自身を知っておかなければならない。さらに、「自己」は私たちの心の複雑なメカニズムが絶えず作り出し、アップデートし、書き直す、虚構の物語であることを認めることである。

 現代は、従来の紙媒体だけでなく、インターネット上にも既に情報はあふれかえっている。これらの情報の中には、フェイクや恣意的なミスリードも含まれている。現代を生きる我々に必要なのは、本書にあるように、情報の意味を理解したり、重要なものとそうでないものを見分けたりする能力、そして大量の情報の断片を結びつけて、世の中の状況を幅広く捉え、物事の本質を見極める能力である。