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外資系ネットワーク・エンジニアの独り言。

2020 Vol.11 『欲望の資本主義4 スティグリッツ×ファーガソン 不確実性への挑戦』

欲望の資本主義4 スティグリッツ×ファーガソン 不確実性への挑戦: コロナ危機の本質

 

『欲望の資本主義4 スティグリッツ×ファーガソン 不確実性への挑戦』

丸山俊一+NHK「欲望の資本主義」制作班, 2020, 東洋経済新報社

 

 本書は、未来を展望する歴史学者ニーアル・ファーガソンと戦う理論経済学者、ジョセフ・スティグリッツの二人へのインタービューから現代の社会システムや資本主義の構造に関する分析と今後への展望についてまとめたものである。コロナによるパンデミックを経験した我々のこれからを考えるヒントを与えてくれるであろう。

 ファーガソンは、これまでのネットワークは、中心から外側に向かって放射状に広がっていく性質のものであり、このネットワークは中心で全体を容易に制御できることを意図したものであった。ところが、20世紀以降のネットワークは、インターネットのように中心で制御する要素のない分散型のものになった。現在、広く普及しているソーシャル・ネットワークもインターネットのような分散型であり、中央で集中管理されているものではない。そして、この巨大な社会ネットワークは、善し悪しを区別せず、どのようなものでも迅速に伝達する。今回の新型コロナ・ウイルスもこの巨大ネットワークによって非常に素早く伝播したのである。

 さらに、ファーガソンは経済に関して、経済学者は、社会的ネットワークが市場経済や現代的な官僚制とまじりあった複雑なシステムであることを理解せず、社会を単純化した線形数学モデルに当てはめようとしている。このため、現実世界では起こっていない単純化されたモデルでは、間違えた予測をし続けることになり、不確実性の領域にある多くの事柄をモデルに取り込む必要がある、と主張する。

 パンデミックは、貧困層ほど感染率や死亡率が高くなる傾向にある。つまり、パンデミックの影響には所得の逆進性があり、その結果、これまで以上に格差と不平等が拡大していくことであろう。

 一方、スティグリッツは、40年前のレーガンサッチャー新自由主義は、グローバリゼーションやファイナンシャリゼーション、国際化に金融化、そして技術の進歩がすべての人々の生活水準を高め、その結果、格差や不平等は広がるかもしれないが、強力な成長により誰もが恩恵を受けるという考えを否定する。この新自由主義の結果、成長は鈍化し、恩恵を受けたのは、ごく一部の大富豪だけであった。この政策が、市場経済の失敗を引き起こし、現在の格差と不平等の拡大と民主主義の脅威を招いた、とする。

 そして、スティグリッツは、資本主義は民衆のためのものであり、資本主義は民主主義制度の一部であるべきで、資本主義の目指す利潤は、民主主義の目的を達成するための手段であって、目的ではない、と主張する。現代のアメリカは、権力を分かち合いことを忘れ、一部の少数に権力が集中することにより、経済的格差の広がりと政治的不平等をもたらした。そして、現在の格差と不平等に対処するため、経済ゲームのルールの見直しと再配分が非常に重要であり、最低賃金の引上げのような政府による政策の実行が必要である、主張する。

 スティグリッツも経済学者が使う標準モデルでは、経済危機を予測することはできず、分配の問題も議論することはできず、気候変動に対応することもできないと考えている。そこで、従来のモデルに代わる新しいモデルとして、行動経済学の分野などで新しい試みがされてきている。

 新型コロナによるパンデミックにより、人々は活発で強力な政府の必要性を実感し、脆弱性が露呈したグローバルサプライチェーンのような資本主義システムの根本的な弱点を再考し、回復力を生み出すために政府の規制が必要である、とする。

 歴史学者ファーガソンと経済学者のスティグリッツの二人の発言は、一見対峙していると感じることもあったが、微妙な調和を見せている。

 止むことなく欲望を求める人類は、不確実性の世界にどのように生きていけばよいのだろうか?

今、目に見えているものがすべてではない。物事の本質を見極めることが重要である。