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欲望の資本主義 2021 『格差拡大 社会の深部に亀裂が走る時』

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NHK BS1 スペシャル 欲望の資本主義 2021 『格差拡大 社会の深部に亀裂が走る時』

 

 ここ数年、正月に放映される「欲望の資本主義」シリーズを今年も視聴した。そこで、番組を見た私見をまとめてみる。

 番組では、「新型コロナウイルスによるパンデミックが社会の歪みと格差拡大を浮き彫りにした。」としているが、格差が拡大していることはそれ以前から明白であったのではないか?オックスファムの年次報告書によれば、2017年には、世界の富裕層の上位1%がこの年に創造された富の82%を占めていた。これが、2019年には、世界の富裕層の上位2153人が保有する富は、世界人口の約6割の46億人の持つ富よりも多い状況である。パンデミックは、ますます格差を助長しているように見える。

 この格差拡大を招いた要因は、グローバリゼーションの広がりによる部分が大きい。以前のように経済が成長している状態であれば、世界システム論で言うところの周辺から中心に利益を転嫁することで経済成長を達成することができていた。これが、グローバリゼーションにより、これまで搾取される側であった周辺と中心の差が縮小することになり、労働者に矛先が向かったと思われる。実際に、非正規労働者のように、低賃金に抑え込まれた階級との格差は拡大していく一方である。

 資本主義は、1929年の世界大恐慌以降、政府による有効需要の創出という「大きな政府」を志向するケインズ政策が功を奏して成長を続けていた。それが、1973年のオイルショックを契機として、それまでの高度成長傾向からアメリカでのスタグフレーションを経て変容を遂げることとなった。各国政府は、これまでのケインズ政策では対応できない場面に直面することとなったのだ。

 そこで台頭してきたのが、フリードマンによる貨幣供給量を重視し、政府の介入をなくすことを目指す新自由主義政策である。この政策は、レーガノミクスと呼ばれるものである。この政策転換があった、1980年頃から資本主義は、実体経済から金融経済へ、有形資産から無形資産へと変化した。これは、富を生むルールの変更であり、コンピューター技術の発展が無形資産へのシフトを後押しした。さらに、新自由主義による規制緩和が、グローバル化を進展させ、GAFAのような市場支配力を持った巨大企業の登場をさせた。その結果、労働者は、正規労働者から非正規労働者の増加へとシフトし、企業による賃金の抑制が長期間継続されることにより、現在のような格差拡大を招いた。この新自由主義政策も、2008年のリーマンショックにより、金融経済の危うさを浮き彫りにしたが、現在も継続されている。

 現在は、人類がこれまで守ってきた善と悪を判断する倫理観を失ってしまったようだ。それは、人々の行動が、暗黙裡のうち守られてきた常識から禁止事項として記載されていないことは許されているものと考えるように変化してきていると感じる。

 そして、現在は、株価が企業の現実を表すものではなく、欲望に基づく投資家の期待値となってしまっている。つまり、株式市場が欲望の資本主義を大衆化したのだ。

 人間は物事を見たいように見る。カエサルの言葉によると、「人間はみな自分のみたいものしか見ようとしない」。物事の本質を見極め、新しい目で世界を見渡すことが必要である。 

 止められない、止まらない、欲望の資本主義。欲望を見つめて、欲望を越える物語は続く。