TechnologyとIntelligenceに憧れて

外資系ネットワーク・エンジニアの独り言。

2021 Vol. 6:『インタンジブル・アセット –「IT投資と生産性」相関の原理-』 エリック・ブリニョルフソン

インタンジブル・アセット―「IT投資と生産性」相関の原理

『インタンジブル・アセット –「IT投資と生産性」相関の原理-』 エリック・ブリニョルフソン, CSK訳・編, ダイヤモンド社, 2004

 

本書は、コンピューターへの投資が生産性統計に表れてこない、という「生産性パラドックス」について、情報技術とそれが企業の業績と組織構造に与える影響の観点から記述された論文で構成されたものである。

 GAFAのように情報技術とインターネットを活用して成功した企業は、「デジタル組織」と呼ばれる仕事を組織化する新しい方法を採用している。つまり、企業が情報技術を使って成功するためには、仕事のやり方を変え、新しいタイプの業務プロセス、新サービス、新製品、顧客やサプライヤーと取引する新しい方法を生み出し、実行に移すことが必要である。

 ここで、情報技術を大規模に活用するプロジェクトにおけるコスト構成比を見てみると、コンピューターのハードウェアとソフトウェアを合計しても、全体のおよそ20%を占めるに過ぎない。業務プロセスの再設計と再構築にかかる組織資本のための投資とユーザー教育のような人的資本を築くための投資が全体の80%になっている。このコストのうち、ハードウェアは資産として計上される(会計制度によってソフトウェアも資産として扱う)が、それ以外の組織資本や人的資本は、通常費用として扱われ、資産に投資したことにはならない。このことは、企業内では莫大なインタンジブル・アセットが資産として記載されることなく、創り出されているということである。このインタンジブル・アセットの重要性は高まっており、20世紀には、物理的な機械や装置が最も重要な資産であったものが、21世紀には組織資本や人的資本が生産性の向上を支える最も重要な要素となっている。つまり、ITは、生産性向上の有望な源泉であっても、業務慣行、人的資本、および組織再編への補完的投資が行われない限り、企業や経済の全体的な業績に直接貢献することはないということである。現在では、企業の生産活動には、資本や労働といった従来からある生産要素の他に、スキル、組織構造・プロセス、企業文化などのインタンジブル・アセットも必要なっているということである。

企業のトランスフォーメーションを成功させるためには、ハードウェアとソフトウェアへの投資だけでなく、組織資本や人的資本のような補完的投資も必要である。単にITへの投資をしただけでは、デジタル組織への転換はおぼつかない。日本企業が今後も発展していくためには、過去のしがらみから脱却し、業務プロセスの再設計と再構築を柔軟に実行できるような組織構造を持つことが必要となるであろう。