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2021 Vol. 2:『無形資産が経済を支配する – 資本のない資本主義の正体 -』 ジョナサン・ハスケル+スティアン・ウェストレイク

無形資産が経済を支配する―資本のない資本主義の正体

 

『無形資産が経済を支配する – 資本のない資本主義の正体 -』 ジョナサン・ハスケル+スティアン・ウェストレイク著, 山形浩生訳, 東洋経済新報社, 2020

 

 近年、経済活動の重要な要素である投資の種類が、有形資産への投資から無形資産への投資に変化してきている。本書は、この無形資産に焦点をあて、無形資産の台頭によりどのように経済が変化していくのかを考察したものである。

 これまで人々は、何かの価値を測る時には、耐久価値を持つ物理的なモノを数え計測した。この計測の結果は、貨幣などで表現される。これが固定資産である。ところが、工場や設備といった伝統的な固定資産が必要とされない資本なき資本主義の時代が訪れている。有形資産から無形資産への投資がシフトし始めているのだ。ここで、無形資産とは、物理的なものではなくアイデア、知識、社会関係でできた、ソフトウェアや価値のある合意、社内のノウハウなどを指す。

 もともと投資は、財やサービスを生み出すために労働者が使用する道具や設備となる資本ストックを構築するためのもので、経済における機能の中心にあるものであった。この投資の性質が有形投資から無形投資へと変化してきている。既に、一部の先進国では、無形投資が有形投資を上回る状況である。

 この無形資産は、どのような特徴を持っているのだろうか?

 まず、物理資産が、同じ時間に複数の場所に存在することができないのに対し、無形資産は、何度も同時に複数の場所で使用することができ、物理資産に比べて安い費用で使用することができるスケーラビリティを持っている。そして、無形資産は、それまでに作った資産を売却して費用の回収をすることが有形資産よりも難しい。この回収不能費用はサンクコスト(埋没費用)と呼ばれる。さらに、無形資産は、それが特許や著作権のような法律により阻止されていない限り、比較的容易に他の企業が他人の無形資産を活用するスピルオーバーの特徴がある。また、技術分野では、あらゆる新技術は既存技術から生み出されている。つまり、無形資産のようなアイデアは他のアイデアと組み合わされることで威力を発揮するシナジー性を持っているのだ。

 このように無形資産は4つのSの特徴を持っている。これらの特徴は、企業の投資意欲に影響を与えている。先進企業は、無形投資のスケーラビリティを適用し、スピルオーバーの活用により、自分自身の無形投資からだけでなく、他の企業の無形投資も活用する。そして、このような企業は、新規の無形投資とシナジーを持つ他の無形資産を持っている可能性もある。この結果、無形資産を保有し、無形資産の活用に長けている先進企業は、ますます生産性を向上させ、後続企業を引き離していくことになる。

 今後成長する企業には、常に新しい無形資産を生み出し、有効に活用していくことが求められている。無形資産は、GDPなどの国民会計に計上されていないが、国の経済へのおおきな影響力を持っているのだ。そして、この無形資産を現在保有しているGAFAのような企業が他の企業を引き離して、世界を制覇している。だが、新たなゲームチェンジャーが登場し、GAFAの地位を脅かすであろう。そのカギを握るのは無形資産になるのであろうか?