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2021 Vol. 8:『逆境の資本主義 - 格差、気候変動、そしてコロナ・・・・・・ -』 日本経済新聞社[編]

逆境の資本主義 格差、気候変動、そしてコロナ…… (日本経済新聞出版)

『逆境の資本主義 - 格差、気候変動、そしてコロナ・・・・・・ -』 日本経済新聞社[編], 日経BP/日本経済新聞出版本部, 2021

 

 本書は、2020年に日本経済新聞で連載された、「逆境の資本主義」、「コロナと資本主義」を中心に書籍化されたものである。世界の30名以上の知性へのインタビューと資本主義をテーマとした記事により、逆境に陥っている資本主義の本質とデジタル化による潮流の変化に気づいて変わろうとしている資本主義の未来を問うものである。

 これまでの資本を集め、人を雇い、経済が拡大すれば社会全体が豊かになるという「成長の公式」がデジタル化やグローバル化で変質し、格差拡大や環境破壊などの問題が噴き出すようになった。デジタル化により、モノの大量生産が経済成長を支える時代から富の源泉は知識や情報、データに移ったのである。つまり、データが利益を生み出すデータ資本主義が到来し、一握りの「持てる者」がより強くなる世界が訪れたのだ。

 現代資本主義の問題点は、所得の再配分機能が有効に働いておらず、その結果、所得格差が拡大していることである。世界各国の国内総生産(GDP)の付加価値に占める労働者の取り分を示す労働分配率は下がり続け、反対に企業の貯蓄は増え続けている。これは、株主のために利益を追求するという株主至上主義を背景とした、ROE(Return On Equity)経営に基づくものと考えられる。本来、ROEを高めるためには、研究開発や設備投資によって利益を増やしていくべきであるが、ROEが下がれば株主からの退任圧力を受けるため、資金を自社株買いに回し、資本を減らしてROEを押し上げることを選択する状況にある。その結果、将来の成長や安全、環境保護への投資や従業員への還元のような社会的責任も果たせなくなる。企業は、これまでの株主至上主義から脱却し、ROEを超えた新たな公式を探す時がきている。

 モノを買わないミレニアル世代が台頭し、これまでの人々の欲望に基づくモノの大量生産・大量消費で成長を促す仕組みから資本主義が変化しはじめている。これからは、「目に見えない資本」である知識や智恵、人と人との関係、信頼、評判、文化の5つの資産が重要となる。

 今日の資本主義は、ミルトン・フリードマンが訴えた「株主至上主義」の考え方1980年代に浸透し、アクティビストが企業の自社株買いの圧力をかけた。その結果、株主が企業から金を吸い上げ、膨大な利益を手にする一方、従業員は置き去りにされるという不平等が生じた。今、企業に求められているのは、行き過ぎた株主至上主義経営を改め、国家や社会、従業員など幅広い「ステークホルダー(利害関係者)」に配慮したステークホルダー資本主義への移行である。企業は社会全体への責任を負っており、経済活動をするだけでなく、社会とともに生きる存在であり、人びとへの責任がある。そのためにも企業は株主至上主義からステークホルダー主義に移行し、環境や従業員、顧客などに配慮するようにならなければならない。

 約40年間続いてきた、株主至上主義の経営は、格差拡大や気候変動など多くの課題が浮き彫りとなり、資本主義自体を逆境に追い込んだ。今後の未来のために、企業は社会全体への責任を負っていることを認識し、ステークホルダー主義に移行していくことにより、新たな試練を乗り越えるように資本主義も変わっていくことであろう。