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2020 Vol. 2:『未来への大分岐 資本主義の終わりか、人間の終焉か?』 マルクス・ガブリエル/マイケル・ハート/ポール・メイソン/斎藤幸平・編

資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐 (集英社新書)

 

『未来への大分岐 資本主義の終わりか、人間の終焉か?』 マルクス・ガブリエル/マイケル・ハート/ポール・メイソン/斎藤幸平・編 集英社新書, 2019

現代社会が多くの問題に直面し、危機が日に日に深まっている状況において、最悪の事態を避けるためには、資本主義そのものに挑まなければならない危機的段階にきているのではないか、という問題提起のもと、我々がここでどのような選択をするかによって、人類の未来は決定的な違いを迎える。本書は、このような状況において、政治哲学者のマイケル・ハート、哲学者のマルクス・ガブリエル、経済ジャーナリストのポール・メイソンとの対話を通じて、新しい社会の展望を提示しようとするものである。
マイケル・ハートは、2008年のリーマンショックを契機とした経済危機を境に資本主義が危機に陥ったのではなく、1970年代の新自由主義が登場する以前から資本主義は危機にあると認識すべきと主張する。そして、<コモン>という概念から資本主義の終わった先を考えている。<コモン>とは、民主的に共有されて管理される社会的な富を指し、国家や私的企業に判断を委ねるのではなく、民主的に管理していくことを説く。さらに、地球を<コモン>として考えることにより、地球の未来を決めるのは、国家でも私的所有者でもなく、我々全員であり、地球環境について決定する民主的で新しい仕組みが必要であると主張する。
マルクス・ガブリエルは、事実があるところで事実を見ないという相対主義は誤りであり、異なる文化的・社会的背景を持つ人々が合理的な対話を行う機会が奪われてしまうため、民主主義にとっては非常に危険な考え方であると主張する。そして、新実在論の観点から普遍的に妥当する規範システムである民主主義を守っていくことを目指している。実在論とは、人間の認知能力、精神、意識から現実の独立性を保証しようというものであり、新実在論は、人間の意識から独立したものだけが存在しているのではなく、あらゆるものが実在すると考えている。これにより、民主主義が抱える問題への解決策を提示することを試みている。
ポール・メイソンは、2008年のリーマンショックが時代の終わりを告げる危機であるとし、それまでの新自由主義に代わる新しい社会のビジョンを打ち出す必要があると考えている。そのため、ポストキャピタリズムという考えを提唱し、情報技術の発展により潤沢な社会が形成されていくと主張する。そして、テクノロジーの発展により、今後AIがシンギュラリティに達する可能性がある中で、未来をつくるには、我々人間の主体性が必要であり、現代の環境危機が資本の活動を変化させ、ポストキャピタリズムへの移行を進める可能性があるとしている。
現代に生きる我々一人ひとりが主体性を持ち、行動することが必要であり、我々自身が、人類の未来を決定するために、我々がどのような意思決定をするのか、大分岐の時代にきているのである。