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2020 Vol. 1:『銃・病原菌・鉄』 ジャレド・ダイアモンド

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

『銃・病原菌・鉄』 ジャレド・ダイアモンド 倉骨彰訳 草思社文庫, 2012

 本書は、現代世界の不均衡について、人類史の観点から解明しようとするものである。この現代世界における不均衡の要因は、西暦1500年時点における技術や政治構造の各大陸間の格差によるものである。では、なぜこのような格差が生じることになってしまったのか、各大陸の人びとのおかれた環境の差異によるものなのか、生物学的な差異によるものなのか、これらの疑問を解き明かそうとするものである。
 人類は、紀元前700万年頃にアフリカで誕生し、居住地域の飛躍的拡大を経て、紀元前11,000年頃には地球上のほぼすべての大陸と大きな島々で暮らすようになった。そこでは島ごとに異なる環境要因があり、人間社会の多様化が起こっていた。この中には、平和的な民族と戦闘的な民族も現れた。当初人類は、狩猟採集民であったが、野生の動植物の中から人為的な淘汰により農耕に適した栽培種が生み出され、これらの動植物の栽培化と家畜化により、食料生産が行われるようになった。その結果、人類は定住生活を行うようになり、食料の貯蔵・蓄積を可能にした。この結果、大規模な農耕社会が形成され、他の民族との征服戦争を継続することが可能な王国・帝国を作り上げることとなった。
 人類は、紀元前7,000年頃に肥沃な三日月地帯と呼ばれる古代オリエント地域で農耕生活を始めた。その後、それぞれの大陸に農耕や家畜の飼育が広まっていくが、それぞれの大陸において農耕や家畜の飼育が異なる時代にはじまったという、食料生産開始の地理的な時間差が人びとのその後の運命を大きく左右することになった。その運命とは、征服する側になるか、征服される側になるか、の違いである。
 そして、食料生産を他の地域に先んじてはじめた人びとは、他の地域の人たちより一歩先に銃器や鉄鋼製造の技術を発達させ、各種疫病に対する免疫を発達させる過程へと歩み出すこととなった。その過程で、病原菌に対する抵抗力(免疫)を持った人間が免疫を持たない人間に接触することにより、疫病の流行をもたらし、その結果、各大陸の先住民を征服することに病原菌が決定的な役割を果たした。
 現代世界の不均衡をもたらした要因として、ユーラシア大陸南北アメリカ大陸、アフリカ大陸の地理的な広がりの違いがある。ユーラシア大陸が東西に広がっているのに対して、南北アメリカ大陸とアフリカ大陸は南北に広がっている。この違いは、食料生産の伝播に大きな影響と与えている。ユーラシア大陸では、経度が異なっていても、同じ緯度であれば、日照時間や気候や季節の移り変わりもほぼ同様である。このため、同一種の植物を容易に栽培することが可能であり、食料生産が広がる速度も早かった。一方、南北アメリカ大陸やアフリカ大陸では、南北に広がっているため、日照時間や気候が大きく異なる。このため、同一種の植物では絶滅することが起こり、食料生産が広がっていく速度も遅かった。この結果、製造技術や疫病への免疫を発達させた、ユーラシア大陸に住むヨーロッパ人が南北アメリカ大陸やアフリカ大陸の原住民を征服していくこととなった。
 本書の『銃・病原菌・鉄』というタイトルは、ヨーロッパ人が他の大陸を征服することができた直接要因を凝縮したものであり、「歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない」と結論づけている。つまり、人類が征服する側か、征服される側なのかを決めるものは、あくまでも環境の差異である、ということは本書で一貫して記述されていることである。