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Vol. 5:『資本主義の終焉と歴史の危機』 水野和夫

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『資本主義の終焉と歴史の危機』 水野和夫著, 集英社, 2014

 本書は、現代日本が突き当たっている、超低金利、低成長の状況について、資本主義の構造の変化と資本主義に内在する矛盾を明らかにし、現代の資本主義が危機に直面しており、資本主義の次の社会システムの必要性を説くものである。
 資本主義は、資本の自己増殖するプロセスであり、「中心」と「周辺」から構成されている。ここで、「中心」とは、先進国、あるいはミクロの意味では資本家を指している。そして、「周辺」とは、植民地、あるいは発展途上国新興国のことであり、ミクロの意味では労働者が該当する。資本主義は、周辺のフロンティアを拡大し、周辺から蒐集することにより、中心に利潤をもたらす構造である。逆に言うと、資本主義は、周辺が拡大し、そこから蒐集することができなくなると、中心の利潤が拡大できなくなるということである。
この資本主義の矛盾に気づいていたマルクスは、『資本論』の中で、世界のグローバリゼーションが進むと周辺が拡大することができなくなり、周辺からの蒐集ができなくなることから中心の資本家は利潤分を労働者から搾取することになる、と論じた。これと同様なこととして、日本国内では非正規雇用者(労働者)や中小零細企業が巨大企業からの蒐集の対象となっていると考えられる。そして、現代は、最後のフロンティアとして残されていたアフリカのグローバリゼーションの進展、および新興国の経済発展により、周辺の拡大は困難になってきている。これは、アフリカ諸国を含め、発展途上国新興国が経済発展することにより、これまで中心と周辺に区別されていた地域が区別なく一体化してきていることによるものである。
 ところで、現代日本では、長期にわたり金利がゼロの状態が続いている。これは、利潤を生みだせる投資先がないことを示している。資本主義は、投資により周辺を拡大し、その結果中心に利潤をもたらすプロセスであることから、投資先がないということは周辺から中心に利潤をもたらすことができず、中心の利潤率が低下していく状態である。このことは、資本主義が機能不全に陥っていることを示している。
 このような資本主義の行き詰まりを回避するため、アメリカは「電子・金融空間」を生み出し、資本主義の延命を図った。本書では、この「電子・金融空間」が周辺として拡大することにより、中心に利潤をもたらしたと説明されている。
だが、本当にそうだろうか?
ここでいう「電子・金融空間」とは、IT技術と金融自由化によってもたらされる空間のことを指している。実際には、「電子・金融空間」というよりも、GAFAのようなプラットフォーマーが支配する「デジタル空間」が構成されており、さらにビットコインをはじめとする仮想通貨の世界も広がっている。この空間はもはや周辺なのではなく、既にこの空間が中心であり、これまでの資本主義世界を周辺として、利潤を吸い上げているのではないか?
このまま資本主義が終焉を迎えてしまうのか、あるいは資本主義が現在とは別な形態に変容して存続するのか、いずれにしても、現在の資本主義システムままではなく、次のシステムが構築されていくものと思われる。

 

(2019. 6. 4 掲載)