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2022 Vol.12:『GE帝国盛衰史 ―「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか』

GE帝国盛衰史――「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか

『GE帝国盛衰史 ―「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか』 トーマス・グリダ、テッド・マン著, 御立英史訳, ダイヤモンド社, 2022

 

 本書は、表紙の折り返しに記載されているとおり、100年以上にわたって輝き続けたゼネラル・エレクトリック(GE)が、なぜ、どのように凋落したのかを記した歴史的著作である。

 GEは、「20世紀最高の経営者」と呼ばれた、ジャック・ウェルチCEO時代に隆盛を極めた。本書は、ウェルチの後にCEOとなったジェフ・イメルトの時代の好業績とその後の凋落に続いていく企業内部での動きを掘り下げている。

 GEは、ウェルチ時代から引き続き、イメルトもCEOが取締役会長を兼ねる組織体制であり、この結果、取締役会がCEOの経営のチェック機能を果たせず、CEOの意向・暴走を止めることができなかったようだ。CEOが取締役会長を兼ねるということは、その会社の経営すべてにおいて、絶対権限を持つことになってしまう。この結果、CEOの意に反するものは排除され、まわりの人間すべてがイエスマンになりかねない。絶対権限を手に入れた人間が暴走して大きな失敗を犯すことは過去の多くの事例を見れば明らかである。

 本書によると、イメルトは企業の財務面の資質に欠けていたようだ。もし、イメルトが後任のフラナリーのように企業財務の資質があれば、GE内で隠蔽された問題に気づくことができたと思われる。だが、日本人の多くの経営者も自社の財務面を解釈していないのではないだろうか?

大企業であれば、CFOが企業財務の観点からビジネスの状況や健全性を判断し、CEOは財務面を見ないということも考えられる。これでは、企業経営は成り立たなくなってしまう。だが、数字だけで企業経営ができるわけではない。イメルトのような人を引き付けるプレゼンテーションとリーダーシップも必要である。そして、危機に直面した時には、楽観的に考えるのではなく、最悪の事態を想定して、迅速に対処することが重要である。そうでないと、多くの企業、団体が陥ったように、事態は悪化の一途をたどることになる。

本書は、米国有数の優良企業であった、GEが実際には、CEOが株主に約束した目標数値を達成するために、GEキャピタルによる操作が行われていた内情を描き出している。そして、エンロン事件を契機とした米国政府によるコーポレートガバナンスを強化する法整備がなされ、その結果、従来GEが実施していた収益計上ができなくなり、崩壊していくこととなった。かつて、GEでは優秀な人材が育成されている、と言われ、歴代のCEOはGEの内部から就任していた。イメルトの後任で、GEの立て直し策を練り、実行しつつある状態で解任されたフラナリーもGE社員であった。だが、現在は、外部から取締役会に招聘されたカルプ氏がCEOを務めており、フラナリーが実行しようとしていた戦略をGE外部からきたCEOを実施しているというのは、皮肉である。

かつて、「ニュートロン・ジャック」と呼ばれるほど、目標数値に対して、精神に支障ときたすほど上司から追いつめられる状況は、捏造、隠蔽など違法ないし、合法すれすれの状態の温床となる。そして、上位マネジメントは、数値が絶対のものとなり、「確証バイアス」をかけてしまうものなのだ。この結果、物事の本質を見失ってしまうのではないか。