TechnologyとIntelligenceに憧れて

外資系ネットワーク・エンジニアの独り言。

2021 Vol.10:『カスタマーサクセスとは何か -日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」-』

カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」

 

『カスタマーサクセスとは何か -日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」-』 弘子ラザヴィ著, 英治出版, 2019

 

 本書は、デジタル時代を生き抜くあらゆる企業にとって必須の概念となってきている「カスタマーサクセス」の必然性と本質について、日本企業が変わっていくべき方向性として解説したものである。

 カスタマーサクセスが注目されるようになったのは、社会が「モノ売り切りモデル」から「リテンションモデル」へとシフトしていることによるものである。モノ売り切りモデルでは、売った瞬間にプロダクトの価値が固定化され、一定期間にコストを回収することを前提に事業計画を立てる。これに対し、リテンションモデルでは、売った後もプロダクトの価値が最新・最適化され続ける。つまり、売った後にプロダクトの価値や収益構造を変え続けることのできるモデルである。リテンションモデルとは、カスタマーを虜にする、利用者がそれなしでは生活できない存在になることを目指したものである。

 リテンションモデルの登場の背景には、音楽を例にとると、デジタル技術の革新が引き金となり、利用者はインターネットにつながった持ち運べる高品質なデバイス(スマートフォンなど)を用いて、いつでもどこでも質のよい音楽を楽しむことができるようになった。一方、供給側には、ハードとしての「モノづくり」が不要となり、さらにソフトとしての「モノづくり」コストが劇的に安くなるという変化をもたらしたことが挙げられる。具体的には、以下のような動きがリテンションモデルへのシフトにつながった。

           ・価値の源泉がモノの所有から体験や成果へシフト

           ・利用を継続するか、停止するかという経済取引の選択権が利用者へシフト

           ・プロダクトが常に更新・最適化され、中毒になるレベルまで価値水準が高まる

           ・「高額・多数の単数取引」から「少額・親密な継続取引」へシフト

 デジタル時代の競争舞台は、モノ売り切りモデルからリテンションモデルにシフトし、これまでのモノ売り切りモデルの勝者の競争優位性の価値が喪失していくのだ。まず、リアル店舗は素晴らしい体験を提供する場として重要な顧客接点に進化し、既存のサプライチェーン自体の価値が減退していく。そして、利用者がインターネットを活用し、容易に情報を発信したり入手したりすることが可能となり、企業が知らせたくない情報の露出を押さえるようなこれまでの情報の非対称性に守られた情報のコントロール権を失った。さらに、モノを所有すること自体の価値が薄らぎ、モノ自体へのブランド力も低下している。このようなことからリテンションモデルへシフトするために、モノづくり大国の日本企業は、成功の自縛を解き放たなければならない。このためのキーとなるのが、「カスタマーサクセス」である。

 カスタマーサクセスとは、「商いは買っていただいた後が大切」という基本精神に基づき、「お客様に成功を届ける」ことである。デジタル時代には、お客様(カスタマー)にプロダクトの価値を十分に理解・納得してもらい、使い続けて価値を出してもらい、その結果お客様の業績が上がり成功してもらうことを徹底して考えるものが勝者となるのだ。

 現代のデジタル技術の進化に伴い、人々も大きく進化している。このような時代において、過去の成功体験に縛られることなく、人の発想や行動を変えていくことができるがどうかが企業の成長への分かれ道となるのであろう。

 果たして日本企業はどうなっていくのであろうか?